地鉄の電車は黒部川の左岸を通っているが、当駅の名前の由来となっている「愛本新」の地名は黒部川の右岸側にある。
オリジナルと関係があると思われる「愛本新」という地域が当駅から北方向へ2kmほどいった離れたところにあり、三方向をお隣の入善町に囲まれている。かつてそこは愛本新村という村で、1889(明22)年に音澤村を含む黒部川右岸の計5村が合併し、愛本村が発足する。その後、川の左岸を行く黒部鉄道が1923(大12)年11月に桃原駅(現・宇奈月温泉)まで延伸開業させた際に、当駅が誕生した。住所的には当地は内山村になるのだが、愛本村への入口ということでこの名前になったのかもしれない。
その後愛本村は1954(昭29)年に内山村(宇奈月温泉を含む当地付近から上流の黒部川左岸が相当)と東山村(浦山や下立がある地域)との合併により宇奈月町となった。そして宇奈月町が黒部市へ合併とされたのは2006(平18)年のことになる。
当駅の駅舎は存在感がありながらも可愛らしい造りである。屋根の端が面取りするかのように切り取られているマンサードの屋根もユニークである。
当駅はかつて[特急]停車駅であった。これは推測でしかないが、宇奈月町成立後の1957(昭32)年に愛本駅近くに町役場が移転したことが[特急]が停車していたことの理由かもしれない。黒部市合併後に、宇奈月町役場は黒部市の宇奈月庁舎→宇奈月市民サービスセンターとして当地に残っている。ただ[特急]は2015(平27)年3月のダイヤ改正から当駅の停車を中止している。
駅の隣は関西電力の新愛本変電所で、地鉄の変電所ではない。
当駅は無人駅となっている。他の無人駅では窓口部分に板を打ち付けただけの無粋なものが多いが、当駅については磨りガラスを入れられている。ただ、おそらくではあるが、窓口の木枠が窓のようになっているので、窓口営業していた当時の枠では無いと思われる。
当駅で変わっているのは、改札口部分の通路が斜めになっていること。この建屋であればわざわざ斜めに造らずとも改札口を設けることは可能だと思うだが、この設計にした理由はよく判らない。
訪問時間が山の影になる時間だったので室内が薄暗いが、室内の状態は綺麗に保たれていて好感が持てる。
駅の上市側には踏切があるが、訪問時は道に鎖が渡してあり通れなくなっていた。複線分の幅の踏切の先は鬱蒼とした森のようになっており、そこには「愛本夢の里歩道」と記され、コースの案内図が描かれてた看板が立てられていた。そしてその傍らの看板には「イノシシ注意」の立て札が立てられていた。道が封鎖されているのは、イノシシだけが理由ではなく、おそらく道が崖崩れか何かで通れなくなっているのであろう。
一方で国土地理院HPの地図空中写真閲覧サービスを見ると、この森になってる場所は、少なくとも昭和の時代まで旧ホームの裏側を含む平地部分が田畑になっており人の手が入っていたようだ。鎖で封鎖されているこのの踏切も、元は農作業をする人たちを通すためのものだったようだ。
構内には使用されていないホームが残されている。かつては列車の交換設備があったことが判る。現在使用されているホーム側の線路は前後に不自然な曲線が見られないので、1線スルー形の構内配線だったと思われる。構内踏切については駅舎で直結する形で上市側にあったものと思われる。
駅を通過する14760形による[特急 アルペン1号]。ピントが周囲の景色にあってしまって、車輛のほうは像がぶれてしまっている。
◆写真の列車情報◆ 14760形 #6 モハ14771(+モハ14772) 1607頃通過 AP1[特急 アルペン1号]立山→宇奈月温泉
湘南スタイルの14720形がやってきた。富山地鉄ではクハ車とモハ車で別形式なので、写真のクハ172を14720形と呼ぶのは正しくなく、170形が正しい。とはいっても同時期に生産された車輛で、スタイルもの同一で、固定編成で使用されている車輛を別形式でくくるのは、感覚的に混乱する。でもこれが地鉄の流儀であることも理解しておかないとならない。
◆写真の列車情報◆ 170形(+14720形) #2 クハ172(+モハ14722) 1610発 150[普通]宇奈月温泉→電鉄富山